全身関節弛緩性(ぜんしんかんせつしかんせい)とは?
我々が行っているスポーツ選手に対するメディカルチェックやコンディショニングチェックの項目のひとつに、「全身関節弛緩性(General Joint Laxity)」という「関節の柔らかさ/ゆるさ」をみるテストがあります。
全身関節弛緩性(GJL)とは生まれ持った関節の柔らかさのことですが、この関節弛緩性のある選手は、関節が非常によく動くので、ムチのような「しなり」を使った動きをすることができます。ですから、パフォーマンスという面では非常に能力の高いプレーが可能になります。プロ野球選手のなかでも一流の投手などは、非常に柔らかい肩関節を持っている印象が強いですね。
不安定な関節はケガの一因に
しかしながら、柔らかすぎて不安定な関節(ゆるい関節)は外力への抵抗が弱いため、過剰な動きが強制されると、じん帯や腱といった関節周りの組織を損傷する可能性が高くなってしまいます。
- 反復性の肩関節脱臼
- 膝蓋骨脱臼・亜脱臼
- ひざ関節や足関節のじん帯損傷
などが発生しやすいことが指摘されています。
ですから、安易にケガをしてしまわないためにも、自分の関節の柔らかさを事前にチェックしておくことは大切です。
自分の関節のゆるさをチェックしてみよう。
検査方法はいくつかありますが、ここでは
- 「カーターの5項目」
- 「サルカステスト」
いうものを紹介します。ぜひ自分で、あるいはチームメイト同士でチェックしてみてください。
カーターの5項目
1.親指が前腕につく
2.指をそらして前腕と平行になる
3.ひじ関節の過伸展10度以上
4.ひざ関節の過伸展10度以上
5.足関節をそらして30度以上
サルカステスト
上腕部を下方に引っ張ると、肩関節の部分にくぼみができる。
サルカステスト陽性例
いかがでしたか?
1項目でもあてはまる場合、関節の不安定性がある可能性が高いです。
関節弛緩性は生まれつきの体の特性と考えられている一方で、ストレッチングやトレーニングなどによって変化するとも考えられています。
ケガのリスクの面からもトレーニングによって関節周囲の筋力を十分に鍛えて、過剰な関節の動きを強制された結果生じる外傷に備える必要があります。
【ケガ予防のためのエクササイズ】
ここでは、関節が不安定な選手に多い肩関節のケガを予防するためのトレーニングの一部をいくつか簡単にご紹介します。
肩甲骨のエクササイズ
ボールを投げるとき、腕の骨(上腕骨)が動くのと連動して肩甲骨も上手に動かなければスムーズな投球動作は出来ません。しかし、関節がゆるい選手の場合、肩甲骨を動かさなくても上腕骨の動きだけで投げられてしまう場合があります。トレーニングで肩甲骨をしっかり動かして効率の良い投球動作を目指しましょう。
僧帽筋(そうぼうきん)
うつ伏せで両手をバンザイし、肩甲骨を意識しながら天井に向かって両手を挙げる。
菱形筋(りょうけいきん)
うつ伏せで片方の手を背中に回し、肩甲骨を意識しながら天井に向かって持ち上げる。
前鋸筋(ぜんきょきん)
仰向けで両腕を天井方向に伸ばす。ひじを伸ばしたまま、肩甲骨の動きで天井方向に動かす。
肩のインナーマッスル
肩のインナーマッスルは関節を安定させる役割があります。あまり面白くない地味なトレーニングですが、毎日続けることで効果を感じることが出来るはずです。肩甲骨のエクササイズと合わせて行いましょう。
外旋筋(座位)
外旋筋(壁にひじを付けて)
棘上筋
アウターマッスル
三角筋
肩回りのアウターマッスルの1つである三角筋を鍛えて不安定な肩関節を安定させましょう。
①.1㎏程の重りを肩の高さに持ち、上へ持ち上げる。
②.重りを前・横に持ちあげ、肩の高さで20~30秒保持する。
③.図のような姿勢から、ひじを曲げ伸ばしする。
投球フォームを見直す
投球フォームで特に注意したいのは、いわゆる
- 「体が早く開く」
- 「アーム式」
- 「肘下がり」
のフォームなどです。これらの投球フォームは肩関節に大きなストレスがかかり関節を傷つけてしまいます。肩ひじに負担のない投球フォームを身に付けましょう。
まとめ
肩・ひじを痛めてリハビリに励んでいる選手のなかでも関節がゆるい選手は、競技復帰までの期間が長くかかってしまう印象があります。
ケガを長引かせないためにも継続的に自分の身体をチェックし、ケガ予防のためのコンディショニングを行ってください。
エクササイズ動画
参考文献
- 山本利春/スポーツ指導者のためのコンディショニングの基礎知識/大修館書店・2010
- 桜庭景植/ここが聞きたい!スポーツ診療Q&A/全日本病院出版会・2011
- 原正文/野球肩(インピンジメント症候群)/スポーツ外傷・障害の理学診断 理学療法ガイド・2008
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