選手生命が絶たれることも!?離断性骨軟骨炎」(野球大好き8月号)

はじめに

今回は、野球肘と呼ばれる障害のなかでも頻度は少ないものの10歳前後のジュニア期の野球選手に発生する「上腕骨小頭離断性骨軟骨炎・じょうわんこつしょうとうりだんせいこつなんこつえん」について説明します。少年野球に関わる方には、ぜひ覚えておいて欲しい投球障害の1つです。

投球時の肘外側痛

野球肘は、肘関節の内側(ないそく)、外側(がいそく)、および後方の3つの部位の傷害に分けられます。その中でも特に外側の障害は発見が遅れた場合、予後が悪く治療に難渋してしまいますので注意が必要です。

ジュニア期の野球選手に多い肘外側の障害には、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎や橈骨頭(とうこつとう)障害と言われるものがあります。

これらの障害は、肘の外側の骨どうしがぶつかる圧迫力」や滑ってズレる力剪断力(せんだんりょく)」が加わることによって生じます。

このような圧迫力や剪断力といった力は、図1(投球フェーズ)のコッキング期~加速期にかけて加わります。図1

野球肘の発症に影響を与える因子

とくに図2のように、体幹が回旋しながら前方に移動しているとき、ボールを持つ方の肩から肘、手にかけては後方に残ったままになっています。このとき、肘には「外反ストレス」という過度なストレスがかかることになります。要するに肘が外に持っていかれる状態です。

この「外反ストレス」が野球肘を発症させる原因のひとつです。

図2

外反ストレス以外にも、投げすぎ、血行障害、疲労、不良な投球フォームなども野球肘の発症に影響を与えます。良くないフォームで投げる少年野球選手の場合、肘へのストレスは、硬式ボール120個分の力がかかるとも言われています。

図3

成長期特有の野球肘「離断性骨軟骨炎」とは?

投球動作などで関節の同じところに繰り返しストレスや外傷が加わると、軟骨や骨に血流障害が生じます。すると、障害を受けた骨の一部が壊死し、骨とそこに付着する軟骨がはがれ落ちることになります。この状態を「離断性骨軟骨炎」とよびます。(図4

少年野球選手における離断性骨軟骨炎の頻度は、1.7%から1.9%程度と報告されています。症状出現時の平均年齢は11.4歳で、骨が丈夫でない成長期特有の障害といえます。

初期段階に特徴的な症状はありませんが、関節軟骨の表面に亀裂や変性が生じると肘関節外側から後外側の投球時痛と圧痛、可動域制限が出てきます。

4 岩瀬の病期分類

悲惨な予後をたどる場合もある

離断性骨軟骨炎は、頻度は低いものの、発見が遅れた場合には予後が悪く、最悪の場合は選手生命が絶たれることもあるほどです。

離断性骨軟骨炎の治療(表1

保存療法

通常612か月の投球禁止が必要になります。レントゲン上で病巣の半分以上の修復が認められたら投球を許可します。

投球禁止と同時に、腕立て伏せ、跳び箱、逆立ち、腕相撲など肘関節に圧迫や剪断力のかかることは禁止です。

長期の投球禁止が予想される選手には、非利き手側での投球を勧めることもあります。小学生では上達は早く、数か月後に外野手や1塁手として試合に出られるようになります。試合に出られるようになると、モチベーションの維持にもつながります。

リハビリでは、肩・肘関節、胸郭、股関節まわりの柔軟性を改善することが重要です。また、痛みに応じて全身の筋力強化を行います。

手術療法

病状が進行したケースでは、将来的な障害を残さないためにも手術が検討されます。具体的な手術としては、遊離した骨軟骨片を取り出して生体吸収性の釘でくっつけ、新たな骨ができるようにする方法(骨釘固定術)があります。遊離した骨軟骨片をくっつけることが難しい場合は他の部位で切り取った骨軟骨を移植し、関節表面の軟骨を形成します(骨軟骨柱移植術、モザイク形成術)。

参考ページ:医師・病院と患者をつなぐ医療検索サイト|メディカルノート

1 保存療法・術後療法の内容

図5 離断性骨軟骨炎の治療の進め方

 離断性骨軟骨炎の初期例(透亮期)では、投球禁止を主体とした保存療法で90%以上が修復します。進行期では50%程度しか修復しないため、初期で発見することが鍵になります。

離断性骨軟骨炎と関連性の高いフィジカルチェック4項目

次の4つの項目で異常がある場合は、離断性骨軟骨炎の危険性があると言われています。簡単にチェックできるので試してみるといいかもしれません。

  1. 過去半年以内に投球肘痛の既往があること
  2. 投球肘の伸展制限があること(肘がまっすぐ伸びない)
  3. 片脚立位バランステストが陽性であること(3秒間静止できない)
  4. 投球時「肩‐肩‐肘ライン」がずれていること(肘下がり)

【参考文献】

  • 病気や症状等の医療情報をわかりやすく 医師・病院と患者をつなぐ医療検索サイト|メディカルノート
  • 菅谷啓之/肩と肘のスポーツ障害 診断と治療のテクニック/中外医学者
  • 松尾知之/競技復帰のための投球フォーム/臨床スポーツ医学・2012
  • 山崎哲也/上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病期、臨床症状、理学所見/関節外科・2014
  • 松浦哲也/肘離断性骨軟骨炎の治療と予防/臨床スポーツ医学・2015
  • 鈴江直人ら/成長期アスリートの野球肘 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対する保存療法・2012
  • 亀山顕太郎ら/フィジカルチェックから肘の離断性骨軟骨炎の存在を推定するシステム/理学療法の科学と研究・2015
  • 筒井廣明/整形外科 Q 野球肩の原因・予防・治療